今こそ「適地適作」を福島で


 12月12日の交流会には、36歳の若き桃農家、菅野純一さんに参加していただきました。
 この週のボランティアには日生協より山田様、コープながのより山岸様が来福。その次の日にあったワークショップまで含め、報告いたします。

「新人農家として、この現状が逆にチャンスにも思えるんです」
 これは会を終え、理解が深まってみて、改めて印象的だった菅野さんの言葉です。

菅野さんの言葉に耳を傾ける山田さんと山岸さん

 3・11は、菅野さんが兼業農家から専業にうつった途端に起きました。それでも挫けずにここまで来られた理由を聞くと、
「こんな状況になって、もしここから突破できる何かができたら、それは地球上で初めて、つまり世界初じゃないですか。そう考えたら開き直っちゃって(笑)」
 穏やかな笑顔の菅野さん。ではどこに、そのチャンスを見出しているのでしょうか。
「それは、放射能も含め、土地を探って『適地適作』ができることだと思っているんです。これは本来当たり前のように聞こえるかもしれませんが、今の産地形成は『お金になるもの』というところから逆算して、多少無理してでもつくっているところが少なくない。そこで例えば、砂地のようなところなら根菜が良いとか、陸地でしっかりしたとこなら果樹とか。そういった判断の上で、『この土地だからこそ、こんなに美味いものができる』という、本当の意味で『土地を愛せる農家』になりたいと思っています」
 ただ、これだけのことが起きて問題がないわけはありません。
「作物を測ってみて『ND(未検出)ですよ』と言う時、そこに見えない部分、それこそお子さんに食べさせる時の壁があるんです。どうやっても不確定要素はつきまとう、そこが一番難しい。だから、そこからは親御さんに判断してもらうしかありません」

 また、そもそも福島には、イタリアン・レストランを軸とした横の繋がりがあるということも初耳でした。
 よく知られているように、「スローフード」や「地産地消」といった概念はイタリアの発祥。そこには、「ファーストフード」に対する価値観「スローフード」が象徴する、「幸せな人生、豊かな食をゆったり楽しみ尽くそう」というイタリア人気質があり、それを支えるために必須の肥沃な土壌が、ここ福島にもあるのです。

こんなズッキーニ、是非食べたい!

 そして「そんな今だからこそ、イタリアから学ぶことがある」と、菅野さんは続けます。
「適地適作を実現する上で、精神論もさることながら、イタリア人はそういうプレゼンで予算を引っぱってくるところまで含めて上手なんですね」
 今まで、もしかすると農家さん同士の間にあったかもしれない余計な壁。言ってみればどこでも普通なそれさえも、原発事故以降自然となくなった。今は皆でお互いを認め合いながら、総じて純粋な「お客さんのために」という意識が強くなってきた。
「当然、放射線に関して一番厳しい基準はクリアします。同情じゃなく、『美味しいから買う』というところまで、福島の農作物をもっていきたいんです」

豊かな食文化で知られるイタリアのエミリア・ロマーニャ州。盆地で河も流れる彼の地は地形的、そして農業で負けないことで、福島市に似ています

  終始穏やかに、しかしスローかつ熱い野望を語ってくださった菅野さん。その言葉を聞いている側が勝手に奮い立たされると、
「まずは『この土地ならではのもの』をつくり、それを『検査』し、販売する。そのモデルを僕はスローフードの考えをもとに楽しくやっていきたいんです」
と、菅野さんはこちらを優しく諭し、笑顔に戻してくれるのでした。

 そんな、研究熱心な菅野さんに感心されていたコープながのの山岸さん。
 長野では商品の「サーモンの漬け丼」で、サーモンはチリ産だったにも関わらず、工場が福島だというだけでクレームが入ったことがあり、情報発信の大切さを痛感されたことがあったと言います。職場のセンターは地震被害の大きかった栄村を擁し、そこにあって「ボランティアといえば山岸」という存在として日本各地に飛んできた。長野からの第一陣として来福され、福島の徹底した取組みに感心し、地元に帰られてからもそれを伝えていきたいと仰ってくださいました。

帰りがけのお2人。寒い中のボランティア、誠にお疲れ様でした

 そして、日生協の山田さん。
 山田さんも、福島での取組みが想像以上に先進的であることに驚かれていました。そもそも来福の理由も自分で現地の様子を見たかったから。この取組みを知った今は、将来また来福し、プロジェクトの進捗状況を知りたい。正直、生協の意識調査でも福島のことそのものが忘れられつつある状況もあるが、この取組みには製造業、流通業に携わる人間が学ぶべき姿勢がある。この一歩進んだ取組みは、放射能以外のリスクを扱う現場でも見習えるし、見習うべき、とのことでした。

12/25/2012
事務局