(記念すべき)第1回土壌スクリーニング・ボランティア


 2012年10月8日、「土壌スクリーニング・プロジェクト」がはじまりました。

 プロジェクトは、福島大学小山良太准教授率いる研究チームの提案を受けたJA新ふくしまが英断を下し、そこに福島県生協連のサポートが加わって実現しました。これは、福島県の農業が置かれた厳しい現状を乗り超えるため必須の試みであり、未来に向け、安心と共に持続していく姿を県内外に示していく取組みです。
 私たちはベラルーシ、ウクライナの経験から学びつつ、実践の中から日本、福島だからこその農業のかたちを獲得しなければなりません。そしてもちろん、今これをお読みくださっている全国の生協の皆様のご協力は、プロジェクトの存続に必要不可欠なものであります。

 去る10月8~11日、ならコープから酢田様(76)、上床様(53)、木村様(43)のお3方がボランティアとして来福して下さいました。

 参加理由を伺うと、酢田さんは、関西では福島についての関心が薄まってきているどころか、そもそもなくなっているのではないかと危惧されているとのこと。上床さんは、御自身が阪神淡路大震災で被災し、その時に県外の方々に助けてもらった経験が大きいと仰られました。そして木村さんは人事部に所属されていることもあり、まずは御自身でボランティア体験することを目的に来てくださったとのことでした。

 基本スケジュールとしては、初日月曜13時より、福大石井秀樹特任助教によるレクチャー「放射能汚染から食と農の再生を」から開始します。まずは放射能の基礎知識から、先生が実際に現地調査に行かれたベラルーシ共和国における取組みの報告。そして、徐々にわかってきた農作物への吸収抑制についてや、土壌スクリーニングの科学的見地からの意義を約4時間、質疑応答を交えながら、わかりやすく講義していただきました。レクチャーの内容が9月に聞いたお話からもアップデートされていて、小山チームがプロジェクトに注ぐ意気込みを感じました。

 火~木曜は現地圃場に出ての実践です。実働6時間、計測は1チーム25~30箇所/日を目標に、福島市内各地を駆け巡ります。
 現場責任者であるJA新ふくしまの紺野さんは、「1チームはやはり3人がベスト。計測は丸一日田畑を巡り続ける、実際には見た目よりもハードな作業です」と仰います。加えて、休みは雪が積もるか雷の時だけ。夏は暑さ、冬は寒さと格闘し、当然、雨が降った時の作業の大変さは相当なものとのことでした。

ボランティアは、JA新ふくしまの2名チームに一人ずつ加わっていただきます

計測中にも、生産農家さんのお話を伺う機会があるかもしれません

 水曜夜には福島の生産農家お2方との交流の場をもうけ、そこで伺った当事者のお話は説得力溢れ、心に響くものでした。最終日作業後のワークショップでも、「生産者との話が印象的だった」という意見は多く、交流会は福島の現状を知っていただく上で大切な場と感じました。

 交流会に来られたお一方は原木の椎茸栽培を7、80年間、代々やられてきた方で、それを今年は遂に断念しなければならかったとのこと。きのこは放射性セシウムをよく吸うため福島県産きのこが大打撃を受けているという話は、私も聞いてはいました。その方は、椎茸を放射能汚染と関係ない小菊栽培に切り替え、もともと複合型にいくつかの作物を平行して栽培してきたこともあり、なんとか対処はできていると。しかし、きのこ専業でやってきた知人については、「もう頭の中が損害賠償でいっぱいで、半分ノイローゼ気味。仕事する気もなくなって、奥さんは介護の資格をとってヘルパーになって、、」と話されました。小山先生の予々のご指摘のとおり、現場の事情を聞けば聞くほどに、どうしても国や行政の無策に疑問が湧きました。

 また、ワークショップでは木村さんから、「畑の土が本当にふかふかで、これが長い年月をかけてつくられた肥沃な土なんだなという実感があった」という話がありました。
 それも、前述の農家さんとの交流の場で、放射性物質が降り積った畑の表土を剥ぐことが、どれだけ農家にとって痛みを伴うかが話題にのぼったことに端を発します。つまりそれは何年もかけ、先祖代々工夫を重ね、より美味しい農作物のために丹誠込めてつくられてきた、肥沃な大地です。
 「腐葉土っていうか、あるわけじゃないですか。百姓はそれをとりたくないわけよ。それが『宝』というか、ずーっとつくってきたわけだから」
という農家さんの言葉に、立ち向かう状況の複雑さが垣間見えた気がします。何よりもまず、土壌スクリーニングによって田畑一枚ごとの詳細な放射性物質分布マップをつくる。それが、土地の汚染度合と、農作物によって違う放射線の移行率をマッチングさせた、安全安心な栽培への唯一の道です。

風評被害払拭のため、遂に9月下旬から福島県全域で始まった米の全量検査現場。国の基準は100ベクレルのところ、60ベクレル以上が出れば再検査。県北を中心に、米の生産量に応じてこのような検査場がいくつもつくられている。今回は特別に、紺野さんのご好意で見学させてもらいました

 上床さんからは、「この問題をどう『福島の問題』でなく、『日本の問題』として伝えていけるか」との言葉もありました。それは酢田さんの言葉にもあった「関西以西に現状をどう伝えるか」という問いと重なるところです。酢田さんが続けた「JA、生協が動いた後、他にどういった組織がこの取組みのために手を挙げるべきか」との言葉にも、考えさせられました。

 この事務局ブログは誠に小さなメディアです。しかし改めて「発信する」ことについて、真摯に考えるきっかけをいただきました。

 また私は、石井先生が仰られた「これは本当に地味で、すぐにはその効果を実感できない作業かもしれませんが、農業再生の出発点になる取組みです。まずこのJA新ふくしま管内でモデル・ケースができれば、それをもって県や国の政策に反映できる可能性が生まれます」との言葉にも希望を見出しています。

JA新ふくしま矢野目支店内に並べられた、一台約450万円する精密機器(Nalシンチレーション・カウンター)。外部からゴミは厳重に遮断され、温度と湿度が一定に保たれている。出荷前の検査は義務づけられているが、どんな作物でも1キロ相当を粉砕して持ってこないといけないところに難点がある(例えばじゃがいもと枝豆の1キロは大きな違い)。粉砕せずとも測れる機器が待たれる

 ここから、写真も交えながら、本プロジェクトにまつわるあらゆることを発信していきます。忌憚ないご意見、叱咤等々いただければ幸いです。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。

 10月19日朝
事務局