9月24・25日、福島県生協連本部(福島市)にて土壌スクリーニングプロジェクト「体験学習と意見交換会」が開催されました。このプロジェクトは、福島大学「うつくしまふくしま未来支援センター」の理論的・技術的支援を受け、JA新ふくしまと福島県生協連が共同で行う「汚染マップづくり」の調査活動です。
100メートルメッシュ単位をベースに、田んぼや畑1枚1枚の土壌の放射線量を測定して、結果を地図に落とし込んでいきます。この取り組みは昨年秋、チェルノブイリ事故を視察したときにヒントを得たもので、セシウム137・137を両方計測できるようベラルーシ製の測定機をカスタマイズして使用しています。JA新ふくしまの管内で6,600圃場を対象に、測定器と地図を持った3人一組のチームが、汚染状況や動きを分析できるよう一つの圃場につき3箇所を計測します。
原発事故の被害の実相をこうして「見える化」することで次の対策が見えてきます。土壌の除染が必要なのかどうか、農作物の栽培ができるのかどうか、トマトのような放射線の移行係数の低い農作物をつくるべきか、係数の高い農作物をつくっても大丈夫か、農作物の検査はどこの何をどのくらい重点的にすべきか。福島大学准教授の小山良太さんは、これは本来、国がやるべき作業だと言います。
文科省の調査は2キロメートルメッシュで、福島県内360地点を抽出して測る農水省のサンプル調査も、人もモノも密集した日本の実情に合いません。隣同士の田んぼでも結果は全然違います。除染にしろ食品の放射線検査にしろ、厳密にやり切るのは金銭的にも物理的にも不可能だし、全てをやり切ろうすると効果が疑わしい大雑把なものになってしまいます。ならばどうするのか?
プロジェクト名になっている「スクリーニング」とは「ふるい分け」を意味します。土壌や水源の汚染状況を把握し、その実態に沿って必要な対策を切り分けていくことが求められています。汚染マップづくりはそのための第一歩です。
体験学習会で訪れたりんごの圃場では一本一本の果樹に表皮の除染をしたことを示す青いリボンがついていました。JA新ふくしまには、昨年11月、県が米の「安全宣言」を行った翌月に管内の大波地区で基準値超え(660Bq/㎏)の米が見つかり、対応に追われた苦い経験があります。以来、シンチレーション検査器を37台取り揃え、検査体制を強化してきましたが、いくら不検出という結果が続いても販売の回復にはつながりませんでした。
「命を守る取り組みだ」という決意の下、菅野孝志専務以下JA職員は、圃場が踏み荒らされ、結果がどうなるのかも分からない土壌調査に不安を持つ生産者に、消費者の信頼を取り戻すためだと説得して「汚染マップづくり」の準備を進めています。
多くの野菜は土からの移行係数は低く、1年前より放射線の含有量は下がっています。しかし、農作物は売れず、被害額は今年の方が大きい現実があります。それを風評被害と言えば消費者を加害者にしてしまいます。
生産者と消費者を対立させて誰が喜ぶのか。
もともと地産地消ふくしまネットに関わってきた小山さんは、震災・原発事故からの復興のなかで、共同組合間提携のモデルを再構築することを目指しています。「行政の言うことは信用できない、生産者も売らんがためにやっていると言われてしまう。それなら産消提携・協同組合間提携の枠組みのなかでやるしかない。宮城県や栃木県からもマップづくりのニーズがある。新ふくしまの取り組みはその魁だ」と。
この産・学の呼びかけに福島県生協連が応じ、学習会には日本生協連・ならコープ・郡山医療生協・コープネット・パルシステム連合会・パルシステム埼玉・埼玉県生協連・いずみ市民生協の担当者が参加しました。講師を務めたうつくしまふくしま未来支援センターの特任助教、石井秀樹さんは言いました。
「人が健康に暮らすにはネガティブなものを除去するだけでなく、周囲との関係をポジティブに構築していくことも必要です。事故によって失ったものがある一方で、自分らしく生きる権利まで奪われてはいません。起きてしまった事態を直視し、能動的にアクションを起こすことが大切だと思います」
国境にも県境にも物理的な壁はありません。であるなら、福島で起きたことは、すべての人にとって起きたことです。私たちはこの現実に少しずつ折り合いをつきて生きていくしかありません。福島県生協連では2013年4月までこの取り組みに参加するボランティアを募集しています。
お問合せ先:福島県生活協同組合連合会 電話 024 522 5334