10月31日夜の交流会で話されたこと


 先月10月最終週はコープネット齋藤さん、コープとうきょう保坂さんとパルシステム松本さんが来福され、水曜夜恒例の生産農家さんとの交流会には、「ふくしま土壌クラブ」(以下、土壌クラブ)代表の高橋さんが参加してくださいました。
 土壌クラブは福大・小山チームと連動し、11月8日には福島大学主催、文科省前での「霞ヶ関マルシェ」にも参加してきたばかり。しかも、そもそもクラブの皆さんは小山先生と出会う前から、3・11後の福島での土壌計測の必要性に気づき、自ら機器を購入して計測を開始していたと言います。
 美味しい果物をつくり、「仲間でTPPを恐れる人間はいませんでした」と言えるのが当り前なほどの消費者との信頼関係を築き、逞しく、もしかしたら農業本来の理想的なかたちを実践してきた土壌クラブ。
 話に耳を傾けていた県生協連佐藤専務が思わず、
「それはこのボランティアもそうで、そういう、人と人との繋がりが協同組合の原点でもあると思うんです。これからも私はこうして、皆さんとの出会いを大事にしていきたい」
と仰るほど示唆に富む、心籠った言葉が飛び交った夜でした。
 中身を凝縮し、字数で約5000字まで整理しました。なるべくその時の空気までがそのまま伝わるよう、お届けします。

交流会前には、県生協連にて熊谷会長からの挨拶もありました

 高橋 私たちの取組みのきっかけといったら、去年一年間も果物はつくって売ってたんですけれども、もちろんこんなことになるなんて思わずつくってきたわけです。そして実際こうなって、現実を消費者の方々にわかってもらえないわけですね。私たちには直接消費者と色々なかたちで話をする機会が多い仲間が多くいたので、余計に「このままではダメだ」という危機感、不安感もありました。もちろん去年一年間は自分らで納得のできる農業ではなく、だからといって何もしないわけにいかないと。ですので詰まるところ、基本から信頼を積み上げていこうということで、それで勉強会も含めてはじめたんです。

事務局 いつ頃はじめたんですか?

高橋 勉強会は去年の夏過ぎからです。これは原発立地で恥ずかしい話ですが、ベクレルとかセシウムとか、当時は本当に、そういうものを聞いたこともありませんでした。

保坂 「マイクロシーベルトって何語?」みたいな。

松本 「キューリー」とかね。

高橋 本当に、「『キュウリ』なら」ってくらいの話でした(笑)。

事務局 最初は何人くらいいたんですか?

高橋 30人くらい、毎回自分でお金出して集まってくる仲間でやっていたんです。世代的には、私も今40代なんですが、3〜50代くらいの人が中心の、若い人が多かったと思います。

佐藤 今、県の生産農家の平均年齢は65〜70歳と聞いてますが、、

高橋 はい、60代後半から70くらいです。

松本 でも福島は本当に、農協も生協もずうっと古いですよね。

保坂 月曜の先生のレクチャーで「農協発祥の地」も福島にあると。

佐藤 コープふくしまは今年80周年を迎えました。コープこうべさんにはもっと歴史があるので、「東のふくしま、西のこうべ」って言われています。

事務局 高橋さんは民間の立場から、どうやって土壌調査の実現までこぎつけたんですか?

高橋 もともとは「ふくしま希望市場」さんと、あと機材は、それもやっぱりNPOでやってる「ひまわり里親」さんという、ボランティアの方たちがいるんです。そういった方々に協力をいただき、それで皆さんも「果樹のことはわからないけど、こんなやり方がいいんじゃないか」とか。だから計測も本当に詳細に調べてみたり、どのやり方が正しいのか、今のJAさんのやり方や、もちろん細かく計測したからいいという話でもないんですが。

事務局 何にせよ、国の2キロ・メッシュの計測マップはさすがに大き過ぎる?

高橋 2キロはあまりに極端ですが、細かくいくことで違った面で見えてくる部分もあるかなとか、機材も結局自分たちで購入して。それは皆で、「自分たちの信頼は自分らでつくっていくしかないだろう」と話し合ったんです。去年一年間、国や県、市に、再三にわたって要望はだいぶ出しましたが、なかなか思ったような成果も出なければ動きも鈍かった。それで正式に「土壌クラブ」がはじまったのが年明けでした。私は、現場で活動している部分と、あとは「きちんと情報発信していきましょう」ということで、それは福島全体の果物の現状を含め、「こんなことに取組んでいます」とか、それはHPに新聞や雑誌、TVの取材も積極的に受けてきました。見ていただければわかると思うんですが、HP自体を販売目的にしていないですし、それは「自分たちだけ売ればいい」との考えがとても嫌で。もともと福島の果樹農家は、それはCO-OPさん、JAさんも含め、販売チャンネルがすごくたくさんあるんです。だから結論として「最大の問題は放射能だろう」と。それさえクリアすれば、自分たちはTPPだろうが何だろうが最初から眼中にないくらい、そういう経営をやってきていました。ですから「まずは放射能に関する信頼を、少しずつでも回復していきましょう」と。そうやって徐々に活動している時に、会員の一人が小山先生と出会って話する機会に恵またんです。そこで「自分たちの考えとすごく近いし、言ってることも同じだ」と。それで実際に計測してつくったマップを「こんなことやってるんだけど」と、福島大学に持って行ったんです。小山先生は当時の段階ですと生活環境の空間線量のメッシュの計測をされていました。私たちは土の表面のベクレルの計測をしていて。

事務局 まさに一番下から測られていた。

高橋 私たちは果物に影響を与えているのは空間線量じゃなく、土のベクレルだろうって。

齋藤 いや、すごいですね。

高橋 でも実際には、果物は違ったんです。果物は土から吸ってるわけではなく、悪さをしていたのは木の表面に付着していたからでした。今年になっての木の洗浄や粗削り等の除染を行った結果、福島の果物は数字が出たとしても数ベクレルぐらいのレベルで、ほぼ出ない。皆さんもそれぞれに理解を深め、販売状況も落ち込んだところから良くなったり色々ですが、これからは「どう風評被害を克服していくか」という、その方向に舵を切っていきたいと思っています。実際に数字は低い。実害の段階はほぼ克服したとして、あとはここから「どうやったら消費者の皆さんにわかっていただけるのか」ということです。今取組んでるのは、大学さんと一緒になってのアンケート。どういった地域にどんなアピールをすべきか、どれくらいの年代の人たちから嫌悪感を持たれているのか、「現状把握からいこう」と話をしています。

事務局 誰にとっても難しい放射線の問題に、専門家や研究者に頼るだけでなく、現場最前線で立ち向かわれてきたというお話に感銘を受けます。

高橋 果樹を一番研究しているのは「果樹試験場」と呼ばれている、「福島県農業総合センター果樹研究所」です。この前もその果樹研究所と明治大学、他には東芝やメーカーの方々も来て話を伺った時、「本当によくここまでやりましたね」と言われました。そして、福島の果樹地帯がベラルーシやウクライナと違い、「放射能があった場所を除染し、その場所で健全な作物をつくり、再び産地を復興するという試みは、世界のどこもやったことがない」という話をされました。

事務局 土地をただ捨てて移住するだけでなく、ということですね。

高橋 「その道を選ぶほど汚染されていなかった」ということもありますが、そこで「よくやった」と言われて、なんとなく「間違ってなかったのかな」と思いました。

和やかな、しかし気持ちと熱の籠った交流会の様子

保坂 高橋さん何をつくられているんですか?

高橋 りんご、桃と梨です。仲間はぶどうやさくらんぼをつくっています。私たちは、「こんなことで負けない」って言ったら変ですけど、「意地でも負けない」と思ってやってきました。ただやっぱり、今回のことに限っては「自分たちが動かないと何も状況は変わらない」と思ったんです。それは例えば、私のまわりで「TPPが怖い」と思った人は一人もいなかったんですね。

事務局 眼中になかったと。

高橋 それだけ自信もありました。ただ、「この放射能のタイミングでTPPはないだろう」と。もともと、福島の果物は全国のお客様から「人にあげたら喜ばれた」とか、「とにかく美味しい」と評価されてきました。りんごだったら青森、さくらんぼだったら山形、桃は山梨とか、全国の名だたるブランドにはなっていなかったとしても、「食べると美味しいのが福島の果物」ということで私たちも伸ばしていったんです。今私たちは、「放射能というマイナス」から「ゼロに戻す」ことをやっています。福島は「美味しい果物を届けたい」ということを一番前面に出し、「正常に戻っていきたい」という気持ちが本当に強くある。もう一度、食べてもらって「美味しかった」と言われるようになりたい。まずは放射能を克服し、そして産地として強くなっていくのは、そこから先のことなんだと思っています。

松本 フルーツとか果樹というのは特に、もちろん「味」という面と、あとは「イメージ」との総合力じゃないですか。だから、一度レッテルを貼られてしまった福島のフルーツを取り戻すというのは、相当大変だと思うんです。

高橋 間違いなく大変だと思います。

松本 「測ってます」とか、「出てませんよ」ということ以上に、フルーツにはそういう難しさがあると思います。

高橋 嗜好品的な部分も大きくあります。しかし例えば、原発事故前に比べてどれくらい販売したかというのは、みんなそれぞれなんです。そこで6割くらいの販売量の人も、まったく落ちてないという人もいるんです。

松本 まったく落ちてない人もいるんですか?

高橋 私のうちでも、去年で前年比7割くらい販売しました。今年は去年よりも状況がいいので、それ以上かなと思います。それも頑張っている方だとは思うんです。そしてそこで、「その差は何だろう」という話をみんなでするわけです。観光果樹の中には今年3割しか売ってない人もいます。そこで6割、7割売ってる人との差は何かってことを考えると、それはひと言で言うと「生産者と消費者の距離感の近さ」なんです。直接販売をしていて、常に「売る」、「買う」という以上の密接な近い関係でいられると、こういう時にはやっぱり強い。ただお金のやりとりだけで「儲かった」、「落ちた」というレベルでやっていた人の落ち込みは激しいですし、回復も遅いんです。

保坂 その「密接な関係」というのは具体的には?

高橋 具体的には、友達とか親戚くらいの関係ですよね。それは「原発があって、どうだったい?」、「大丈夫かい?」というくらいの気持ちの近さといいますか。それが個人なのか会社さんか、またはどこか団体かもわからないですが、そのくらい生産と消費の場が近かった人は、落ち込みも少ないし回復も早かった。今のところ、私たちはそう思って活動しています。これが今も福島の果物がまったくダメで、測定すればすべて100ベクレルを超えるなんて状況では無理ですが、そうではないので。

松本 実際測ると、そうではないんですよね?

高橋 そうではなくて、今年なんかは本当に数ベクレル。10超えるなんて数えるくらいな話です。そうなると私たちの感覚からすると、今の状況は風評の括りに入ってくると思うんですね。ですから、そこをどうやってうまく皆さんにわかってもらえるか、理解していただけるのかと。

事務局 例えば他県、それも関西以西とかで比較のため、福島や周辺で言われている放射線被害が明らかにない場所での土壌のベクレル数を測るというのは、有効と思いますか?

高橋 確かに、すごく「他県も測ったらいいべ」ということを仰る方もいたりはします。でもそれは、福島の検査態勢が本当にきちんとできて、「どこを測っても本当に出ないよ」ということになって、そこでそういう議論が高まってからで構わないと思うんですね。つまり、中がきちんとしていないのに、「他はよ」と言いはじめても違うんじゃないかと。私たちは当初土壌を調べ始めた際、果実との因果関係を調べようと考えて、「このくらいの数字の土壌からどのくらいのが出るんだろう」ということをやってみたんです。会員の圃場全部で、圃場をさらに区分けして全部サンプルをとって、そして結果的には、除染もしたこともあって、今年は本当に単純に、果実には出ない。過程がどうかということもありつつ、今、福島で果物は安全なものが穫れているということになってます。これは私の考えなんですけれども、もしこれを理解する人としない人がいて、子どもたちのこととか敏感な人たちに「これは安全なんですよ」ということをとくとくと伝えていっても、やっぱり時間がかかると思っています。うちなんかは去年から全品目検査してデータを出して販売していました。「今はこういう状況で、これでご理解いただいて、あとは判断はお願いいたします」と。それで今年もやっていますが、それでわかっていただく人にまずは本当にわかっていただくという、そこが大事なことなのかなと。

事務局 無理強いもしないし、淡々と事実を伝えていくと。

高橋 こういう時に儲けとか、自分たちだけ良ければって想いで花火みたいに打ち上げて、もっと名前を売るやり方もあるとは思うんです。でも、細くてもいいから長く、とにかくやっていこうという想いです。その中で気持ちの繋がった人と仲間になっていって、今も「どうやったら入れる?」とか、そういう人もいてくれます。ただ、人だけをやたら増やそうとも思っていないんですが。

松本 長く付き合って欲しいわけですよね。

高橋 そういうことです。一場面だけ見てもわからないし、福島のこともわかるわけありません。来てじっくり話を聞くとか、何ヶ月かに一回でに来てくれるとか、そういうところから、ゆっくりでもわかってもらえればいいなと思うんです。

11月13日
事務局