賀川督明氏の講演


 5月25日(土)、東京は新宿、パルシステム連合会本部にて、生活サポート生活協同組合・東京(パルシステム連合会と生活クラブ生協・東京が設置した相談生協)第7回通常総会記念講演「今こそ『くらしの安心・安全』を」に参加させていただきました。

 土壌スクリーニング・プロジェクト(以下、どじょスク)が続くにつれ、「これは本当の福島復興の根幹となる」との想いは強くなります。

 そして、その継続について考えるほど感じるのは、膨大かつ、極限まで地味な作業のどじょスクをボランティアで支える「協同組合」の底力。東北大震災から3年目に入り、メディアはもとより、日々の生活に追われる県外の一般市民にしても福島、東北について意識を持ち続けるのは簡単ではありません。また、もし気にかけていても、個人では現地に貢献できる活動が難しいのは言わずもがな。その時、これほど力を発揮できる全国組織は、すぐには他に頭に浮かびません。

 そこで「そもそも協同組合とは?」との問いを突き詰めた時、必ず辿り着く人物が「賀川豊彦」です。拝聴したのは、氏の孫にあたり、賀川記念館館長を務める賀川督明氏の講演でした。

 

 講演は、国連が2012年に制定した「国際協同組合年」に言及するところから始まりました。国際協同組合年は、東北大震災後に福島市で実現した農協、生協、福島大学の連携、つまりどじょスク実現の原動力だったと言えます。そして当然、その連携も自然発生したわけではありません。

 遡れば震災前、重要な前提として、現在もどじょスクを牽引される福島大・小山准教授が近づいてきた国際協同組合年を契機に、従来からあったとは言えない県内組織同士の連携を呼びかけていたことがありました。それは偶然の積み重ねの先で実現したようでいて、そこに必然性を加えたことが「国際協同組合年」たる機能だったと言えます。

 冒頭から、どじょスク始動のきっかけに直結する話に心掴まれました。

 同時に、それがそもそも国連によって唱えられたこと、同年他に「国際森林年」や「世界化学年」もあったこと、2013年は「国際キヌア年」や「国際水協力年」であること等々、自らの勉強不足も思い知らされました。

 それにしても「国際協同組合年」を唱えた国連は、人類ほぼ初体験の災害に見舞われた福島において、それがここまで機能していると想像できているでしょうか。

 また、これまで知らなかった多岐に渡る国際年テーマの背景には、8つの目標があるということも学びました。それらは「貧困と飢餓の撲滅」、「初等教育の達成」、「女性の地位向上」、「幼児死亡率の引き下げ」、「妊産婦の健康確保」、「エイズ、マラリア等の蔓延防止」、「環境の持続維持」、「世界的な協同の構築」です。

 その中で賀川氏は、これも国連が提唱した「ESD=Education for Sustainable Development」つまり、「持続可能な開発のための教育の10年」こそが、協同組合運動そのものであると指摘されました。

 それはつまるところ、「課題解決人の活性化」であると。

 現代社会の問題点は、ものづくりの実感をほとんどの人が感じなくなってきたこと。つまり、人々が単なる「ものを買う人」となってしまったことで、課題の解決、生きる工夫がなされなくなってきた。そして「考えること」にも工夫が必要であり、読書、学習、論議もそのための準備に過ぎない。また、その上で重要なのは、考えたことを実践するための哲学であるとのことでした。

 また、御自身が8年の歳月をかけて山梨に建てられた素敵な(本当に!)ご自宅を引き合いに出しながら、日本においては現在、例えば一戸建て住宅では、約30年の建替えサイクルを見越したハリボテ住宅が横行していると。そしてそれは、人間そのもののハリボテ化にも繋がる。

 「これからは住宅協同組合の創設が必要」で、だからこそ「個人主義の脱却、所有意識の変換を経て、暮らしの要素を本物にしていくことが求められる」とのお言葉、感じることありました。

 話は前述の、今年2013年が制定された「国際水協力年」に繋がります。

 例えばアフリカ大陸の西側ガンビアでは、人々が一日平均3リットルの水で暮らしている。比べて日本では、一人の水使用量が一日平均300リットル以上。中東においても、争いの根源にはヨルダン川源流ゴラン高原での水源争奪戦があり、実は世界の紛争の原因は油よりも水。だからこそ日本が協同組合先進国として、今最も協同組合が必要とされているアフリカでできることは大きい。それが将来的には、資源を共有するエネルギーの協同組合、エネルギーの永続地帯をつくることに繋がっていく。

 ここで有名な、「一人は万人のために 万人は一人のために」の言葉が出てきます。

 持ってるものを分かち合うこと。

 共生する上で忘れてはならないのは、私たちのすぐ隣りに痛みを持った人がいるということ。

 だからこそ、プラスのシェアはもちろん、痛みも分かち合う。

 つまり、マイナスのシェア。

 祖父君と同じくクリスチャンであるという賀川督明氏。講演後、

「でも、それをテーブルの上に置くと話が進まなくなってしまうこともある」

と仰られたように、聞き手に分け隔てなく届くよう配慮された、世界が今到達し、これから向かっていく方向を紐解きながら、ものごとの核心について語られたお話でした。

5/30/2013
事務局