11月14日に開催された交流会の報告です。
今回は長野から木下様、東京から依田様と田中様を迎え、地元福島の生産農家黒澤様と斎藤様、そして土壌スクリーニング・プロジェクトを牽引する福大・小山チームより小松先生に参加いただきました。
黒澤、斎藤両氏の言葉からは福島の農業を取巻く、どうしても理不尽にうつる状況が垣間見える気がします。そして小松先生については、昨年11月に、週刊朝日に次のような記事が掲載されました。
小山チームは、現在この土壌スクリーニング・プロジェクトがJA新ふくしま管内で制作中の詳細な放射性物質分布マップを、すでに伊達市霊山小国地区でつくっています。
小松先生の言葉一つ一つは、それこそ約1年間福島の農業復興の取組み最先端で培われた知見に富み、その経験に支えられてか力強く、頼もしいものでした。
木下 今日行ったところではほうれん草をつくっているところがありました。その先の田んぼで、土壌にだいたい4000ベクレルくらいあったんです。大丈夫なんでしょうか?
小松 実際、野菜からセシウムは出ていません。その上で今も、例えばJA新ふくしま管内なら全品目、直売所でも1検体ずつは必ず測定し、果樹も品種ごとに全部、出荷可否の判断を日々出すようにしています。
事務局 その時、検査に必要な1キロという基準が負担ではないですか?
黒澤 やっかいだよ。いちいち皮剥いて、フード・プロセッサーで砕いてね。
斎藤 いっぱいあるものなら1キロくらい用意できますが、軽い野菜は難しいんです。それは例えば松茸を1キロとか、しかも刻んで持って行くとか。
小松 直売所なんかでにんにく、唐辛子、生姜とか、もう、検体一回出したら売るものなんかなくなります。これは剥いて、これは刻んでといった、今までなかった余計な一手間が、しかも収穫の一番の繁忙期に増えてしまった。
黒澤 結局、他の県ではここまで厳密に検査してねえわけだべさ。ところが福島では全品目、品種を検査してるわけで。
田中 そういった検査をしているということが情報として出てないと、「福島県産だけ避けておけば安全」みたいな気持ちになってしまうかと思います。それは他県産でも、近隣の県でどこが検査してるかなんて全く知らないですし。
小松 例えば宮城は、国の決めたスタンダードな検査はするけれども、それ以上、県として実施する検査の検体数は福島よりもかなり少ない数です。国の検査のモニタリングは、検体数にしても大まかな指針しかありません。同じ7月から9月期で、福島は野菜だけで3000やってる時に、宮城は全県で、野菜全部を3ヶ月で150。だから「20倍違う」という状況がまずあって、たまたま野菜は福島でもどの県でも出ないのでいいですが、特にお米とか、品目によっては、消費者は検査レベルの違いに戸惑う。ただ住民サイドだとか農協、単協で言えばそれで済む話ではないので「自主検査」という動きがあります。
田中 検査したものは表示していますか?
小松 米はしていますが、厳密に言うと玄米までです。玄米にバーコードがつくんです。そこから、バーコードを引き継いでシールを貼るかどうかは精米業者の判断で、例えばブランド銘柄でやる人はそのバーコードを引き継いでそのまま精米にもシールを貼っています。しかし、その過程でブレンドする場合はそこでバーコードも終わり。今のシステムは玄米までで、「精米にも必ず表示する」というところまではいっていません。
黒澤 米からセシウムが出ると、その人が悪いようにされる感じがあるのね。「誰々がやった」、「誰々の家から出た」みたいなこと言うんだけど、本当はその人が一番の被害者であって。
小松 去年、高濃度のセシウムが検出された農家にマスコミがおしよせ、ご本人が地元の皆さんの前で謝ったっていうことがあって。
黒澤 最初に出た福島市大波地区の時は、県知事が安全宣言してから出ちゃったんで、特に効いちゃった。
事務局 お米と、特にきのこがセシウムを吸いやすいと耳にします。他にもそういった作物はありますか?
小松 まずベリー類。それは結局今まで気にしてなかっただけで、今になって北欧のブルーベリー・ジャムから出てきたりしています。あとは水分量の少ない果実で、栗とか梅。また、管理されていないままだった果実と言いますか、土壌改良してない状態で庭先にそのまま生えているものとか。それは、科学的にわかっている部分で、カリウムとセシウムの挙動が似ているので、カリウムがあれば積極的にそちらを吸うと。だから、まったく肥料もやったことがないところだと稀にカリウム欠乏の土壌があって、そういうところの作物は積極的にセシウムを吸う可能性があると言われています。
黒澤 さくらんぼは、去年160ベクレルくらいだった人がみんな70、80とか言ってるし、オレも郡山の試験場に春先行って、そこでデータ的に、果樹や野菜で何が吸いやすいか説明も受けて。
斎藤 果樹は皮や葉っぱから吸収するということで、木の除染なんて、ホントにきれいというか、果樹が半分裸になっちゃって「あれだけやれば出ないよな」って。
小松 世界基準からみても、日本の基準値は低いです。ただウクライナとかベラルーシは食生活に応じて、主食は低く、時々食べる嗜好品は高くという風に設定されています。
事務局 お米の場合、大きい原因は水にありそうだと聞きます。
小松 水田だと結局水の影響と、そこに地形や土質の問題もあるので、流れている水だけでなく地形によって土壌の性質が全然違ってくる。水はけのいい悪い、カリウムを保持できるできないとかがあって、結論として、山側の天水田のところは砂状であったり、積極的にセシウムを吸ってしまう土壌があることが多い。
黒澤 砂状はだめなんだな。
事務局 逆に言えば粘土質で、カリウムが豊富な土壌だと作物に移行し難い。
斎藤 カリウムとセシウムの関係は、人間が喉乾いて、水飲むところをお酒呑んじゃうというような(笑)。
小松 「土が何ベクレル」という問題ではなく、もっと環境要因全体を含めてリスクがあるところを特定していかないと、「福島だけが」ということでは全然済まなくなってしまいます。
田中 その研究はすすんでいるんですか?
小松 それで今、伊達市の霊山小国の作付け制限区域で4大学で連携し、試験栽培をやっています。
事務局 福大以外の3大学とは?
小松 東大、東京農大と徳島大学で、全面的に伊達市のプランに大学が協力するというかたちです。とにかく、「『なぜ小国で1000ベクレルを超える米が出たのか?』というメカニズムがわからないのに、カリウムやゼオライトを蒔いても仕方ないだろう」と。小国という場所は研究の拠点として、土壌のベクレル数の高いところと低いところ、水も天水のところとパイプラインで引いているところがあるので、地域を徹底的に調べればある程度メカニズムはわかるはずだと。この研究は、伊達市・大学・地域住民が連携して地域単位で行っていますが、国の試験研究は場所も三箇所バラバラに、圃場一枚ごとの研究だけです。
田中 それで本当に本気でやろうとしているのかと。
依田 今は「他は危険じゃないんですよ」、「福島だけですよ」という感じで、でもそれが本当にそうならまだいいかもしれませんが、でも実際は違うという可能性がすごくあると。そこで実体を解明しなければ、消費者は「福島だけ避けておけばいいんだ」となってしまいますよね。
小松 ただ、試験栽培するには水を引かないといけないですし、農家の方の協力なしには何もできません。そこで小国の皆さんが「先祖代々受け継いできた土地で、突然の作付け制限で、いつどうなれば再開かもわからない。なぜこうなったかもわからないまま、ただ休み、このまま終わるわけにはいかない。大学に徹底的に調べて欲しい」と。「食べられなくてもいいから、水管理は自分たちでやる。とにかく研究して欲しい」と仰っていただき、食べられないのに、用水路をきれいにしてくださって。
黒澤 田んぼは、そっから始まるんですよね。
小松 そうやって丸一年間のサイクルで、皆さんにご協力いただきながら、今、試験栽培をやっています。
事務局 食品のモニタリングで1キロを用意するとか、小国でのほぼ自主的な試験栽培もそうですし、増えてしまった苦労が多過ぎる印象です。
黒澤 オレも農協に行って言うんだけど、「こういう県のお達しだから」つうことで、とにかく検査、検査。さくらんぼなんて5アール(500平方メートル)くらいなんですが、5品種あるんですよ。そしたら2、3m違うところで5品種全部測るって。
小松 そしてそれが全部「自主検査」とされています。現状罰則規定もない、農家への「お願い」なんですね。県の指示を受け、地元、市町村がお願いしてやるかたちになっているので、そんなはっきりしないシステムの中で、福島県だけが予算をつくってみんなにお願いをし、自主的にやるという。
斎藤 だから福島市では、本当に今年の春は水田を全部やってもらうようにして。それで畑の方は野菜畑を全部面積を出して、ゼオライトもらって、11月までに散布しました。私は小菊をつくっているので食べ物ではないのですが、つくっている以上、とにかく畑は「出荷するもの全てにゼオライトの散布」と出てました。
事務局 改めて「ゼオライト」とは?
黒澤 オレはりんごとかに蒔いてたりもしたんだけど。
斎藤 いくらかは土壌改良剤として使う場合もあったんです。
依田 一応今までも普通にあるものではあったんですね。
事務局 実際にその効果は?
小松 効果は限りなく「実証されていない」。ただ、「効果がない」という研究成果もない。とはいえ、ゼオライトがセシウムを吸着するのは事実なので、畑に入れておけばセシウムをくっつけてその場に留めるのは確かです。ただそれが作物への移行を本当に阻害するかとか、そこのメカニズムは研究成果としてはっきりしていません。
斎藤 本当は最初、ゼオライト1トンでしたから。
小松 川内村とか、実際に1トン蒔いた市町村もありますね。
斎藤 それで「土が壊れる」って言う人が多くて。
黒澤 もともとゼオライトを使っていたけれども、それも、果樹の場合で10R(1000平方メートル)あたり2体、「40キロくれ」とか、そういう風にやってただけです。それをいきなり200キロとか、それは永年作物や米だったら「効くよなぁ」と思う。
小松 有機農業ネットワークの方で福島県、農水省に質問表も出しました。有機農家ほど、せっかく今までやってきた土壌に効果のわからないものを入れたくないという自負があるんです。でもこの辺の地域は「作付けするならば、必ずカリウムとゼオライトを蒔け」ということを必須条件にされてしまい、抵抗できる状況じゃなかった。
事務局 それは有機だろうがおかまいなく?
小松 有機だろうが何だろうが、「蒔かないと稲は作付けできない」とされて、「それにどんな根拠があるのか」という主旨の質問状を出したら、農水省は「資材名は指定していません。それは県か市町村が決めたことです」と。
黒澤 それは責任逃れだよ。
斎藤 何にせよ下から上がっていきようはねえんだから。判断は国から県に来て、それが市に入ってって。
小松 結局どれだけ蒔くかは、最終的には市町村の判断と指示で、だから100キロ蒔いたところから1トン蒔いたところまでバラバラなんです。
黒澤 1トン蒔いたら土変わるよな。
事務局 手応えとして、現在の取組みから何が見えてきていますか?
小松 試験栽培の結果はこれから出てきます。伊達市内だけで約60箇所、その内小国では、研究者が科学的な視点から圃場を選び、地権者の協力を得て42箇所やっています。国・県がやる試験とは比にならない規模です。そうしてとことん原因を突き止め、さらには昨年と今年のデータと合わせ、でもこれは本来なら、国の指示で、国内の研究者たちが総力をやるべきことなんです。これは世界で初めて水田地帯でおこった、放射性物質の大放出と降下だったわけですから。
事務局 国が率先して知見を獲得し世界に提示すべき、貴重な機会であると。
小松 本来なら測ったデータを出すことを、農家さんは嫌がる傾向があります。それが、現地は特に放射能被害が大きかったこともあって、住民の方々に「うちはデータも出してくれていいから、やってくれ」という意向があった。そして伊達市も「やる」と言ってくれた。さらにそこに、手弁当で来てくれる学者がいた。今私たちが手にしているのは、そうやって、ギリギリ首の皮一枚で獲得してきた知見です。成果は大きい。しかし、結果としてこんな態勢でやることになっていて、「これで本当に、日本の水田農業は大丈夫?」というところなんです。
2012/11/26
事務局